理事長挨拶バックナンバー

2003年度

日本アクチュアリー会理事長 寺阪 元之

はじめに

平成15年度定時会員総会が去る5月27日(火)、日本アクチュアリー会五反田会議室にて開催され、すべての議案につき可決承認されました。今年度は当会の役員(理事・監事)の改選期にもあたり、総会終了時より新役員体制での運営がスタートしております。また、同日総会終了後開催の理事会におきまして、互選により引き続き私が理事長に選任されました。会員の皆さまの更なるご支援をよろしくお願い申し上げます。今年度の取組みについては、ご承認いただいた事業計画に記載したとおりですが、理事長として今年度の会の事業運営につき所感を申し述べたいと思います。

専門性の向上に向けた取組み

まず1点目は、専門性の向上へ向けた取組みです。昨年度はデフレの継続やイラク問題等世界的も不安要素が多い中、景気の先行き不透明感が強まり、年度末には日経平均株価が8,000円を切るなど、極めて厳しい経済環境でしたが、我々アクチュアリーにとりましては、各々の立場で舵取りの難しい課題に立ち向かい奮闘された1年ではなかったかと思います。また、将来の不確実性が増す中にあって、我々アクチュアリーに寄せられる期待は一段と高まるとともに、活躍できるフィールドが着実に広がってきていると感じております。これらの要請に応えるべく会員全体の専門職としての知識・能力・識見をより高めていくことが重要であると思っております。

国際アクチュアリー会(IAA:InternationalActuarialAssociation)の教育ガイドラインとシラバスでは、平成17年(西暦2005年)までにIAAのメンバーである各アクチュアリー会に対し、プロフェッショナリズム(行動規範など、専門職として心得ておくべき事項)の教育を正会員資格の要件とすることを求めています。当会においても平成13年5月から新正会員と準会員を主対象とした「正会員研修」を実施しておりますが、このような国際的な流れの中で、平成17年度以降新たに正会員となる場合には、この「正会員研修」を修了していることを必須条件とすることを昨年度の理事会で決議しました。

勿論このような専門性向上への取組みは、今後正会員となる会員のみを対象としたものではありません。当会では会員が専門職として行動する際の指針となるアクチュアリー行動規範を定めるとともに、実務基準や懲戒規則を定め、専門職集団としての自律機能の確保に努めておりますが、このような会の基本的なルールの整備・充実をさらに進めるとともに、会員への徹底にも引き続き取り組んでまいりたいと考えております。

昨年度は懲戒委員会ならびに、その下に編成された調査部会の精力的な活動によって、懲戒の請求が行われていた破綻生命保険会社に関する事案の手続きを一通り終了することができました。関係の皆さまには大変お手数をお掛けしましたが、ご協力に感謝いたします。

過去の裁決による処分の結果につきましては会報に公示されておりますが、今回はヒアリング等の調査を踏まえた懲戒委員会の審議の結果として新たな処分はなく、これは近年行動規範や実務基準の周知徹底が図られた好ましい結果であると思いますが、保険計理人ならびにその業務に関係するアクチュアリーが専門家として誠実に職務を遂行していることを窺い知ることが出来ました。しかしながら、改めて申し上げるまでもなく、我々は社会公共性の高い業務に従事しており、社会経済環境が大幅に変化する中で、現状に満足することはできません。今後とも会員一人一人が日常の職務遂行にあたって、行動規範に示されているとおり、実務基準等を遵守するとともに、常に専門能力の向上に励み、専門職能者としての良心に従い誠実に業務を行なうことに留意していかなければなりません。

会のあり方および組織等の見直し

2点目は、会のあり方および組織等の見直しについてです。平成15年度のスタートにあたり組織の見直しを行いましたが、その中で特徴的なところをいくつか説明したいと思います。

まず専門性委員会は従来の継続教育委員会の名称を改めたものですが、継続教育のみならず、より広範に日本アクチュアリー会会員の専門性を今後一層向上するための方策を、必要であれば諸外国の事例調査等も行なった上で、ご検討頂ければと考えています。またアジア委員会は従来のASEA委員会、中国学術交流委員会に新設のEAAC準備部会を加えて編成されたものですが、国際アクチュアリー会でも注目度が高まっている東南アジアや中国等に対するアクチュアリー教育等の充実への取組みについて、日本アクチュアリー会として従来から行なっている国際活動、国際貢献に政策的な視点も強化して対応していくことを目的としています。

産学共同委員会は従来産学共同ワークショップとしていたものですが、アクチュアリアル・サイエンスの研究者の層を厚くして活発な研究成果を生み出していくための体制作りとして、大学や研究機関等との連携を一層強化することが必要であることから委員会として積極的な活動を期待しているものであります。

一方、会のあり方という面に関しましては、現在公益法人制度の改革が進められているところでありますが、当会としても、運営の枠組みについて現行制度が効果的に機能しているのかどうか、またそれを支える各種の規程が、会員の皆さまが活動しやすいようにきちんと整備されているかという観点に立って、定款から始まり、最終的には事務運営細則に至るまで、所要の整備を行っていきたいと考えています。

会員サービスの向上

3点目は、会員サービスの向上に向けた取組みです。これまでにも会報やアクチュアリージャーナル等の刊行物を通じた情報提供の充実や、例会やセミナーを通じた、アクチュアリー専門職として求められる最新の技術や専門知識の紹介など、関係の委員会等を中心に運営いただいております。これらに加えて今年度は会員間の知識・情報のコミュニケーションを一層促進する観点から当会のホームページの更なる充実を図れればと思っておりますので、各委員会・研究会の積極的な取組みを期待しております。また今年度は、会の事業運営の効率化を図る一環として、小石川の事務局と五反田の会議室を7月後半に中央区晴海のトリトンスクエアに移転いたします。事務局と会議室が併設されることに伴い会議室を利用される会員の皆さまと事務局との距離が縮まることになり、目に見えない効果も期待できるのではないかと考えております。

最後に

以上平成15年度の取組みについて、ポイントを述べましたが、これらは会員の皆さまのご協力、ご支援があってはじめて達成できるものでございますので、今年度も当会の諸活動に積極的に参画いただきたく存じます。

いずれにしましても、活動の場の国際的な広がりの中で、(1)自らのことは自らが律していく(2)社会公共の負託に応えるということが重要であろうと存じます。皆さまのご活躍を祈念いたします。

2002年度

日本アクチュアリー会理事長 寺阪 元之

はじめに

先の平成14年2月21日に開催された理事会において、互選によりまして4月1日付で私が新理事長に選任されました。今後の日本アクチュアリー会の運営等について、ご挨拶を申し上げます。

最初に、林前理事長は在任中、日本アクチュアリー会の発展に向け、多くの課題への対応を図られました。100周年記念大会において報告されたビジョン委員会のアクション・プログラムへの対応ということがありましたが、この2年間は特に国際アクチュアリー会(IAA)の活動が国際会計基準検討の動きを受けて本格化し、日本アクチュアリー会としても、機動的な対応が求められるようになった時期でありました。

また国内においては産学共同ワークショップとして、アクチュアリアル・サイエンスの確立と数理技術面の高度化を図るため大学、研究機関等との連携にも積極的に取り組まれました。さらに、アクション・プログラムに基づき委員会組織を抜本的に再編成されたことは、日本のアクチュアリーを巡る内外の環境が激変する中で、その基本的な対応力を大幅に強化するものでありました。その他諸々のご功績に深く敬意を表したいと思います。

今は日本経済にとりましても、またアクチュアリーにとりましても大きな転換期にありますが、この中で林前理事長の業績を引き継ぎ、会員の皆様とともに、さらにこれを発展させていくことが私の使命と考えております。

アクチュアリーの置かれた状況

さて、当会は1899年の設立以来順調な発展を遂げ、現在約3500名の会員を擁する、国内でも有数の専門職団体に成長いたしました。これもひとえに諸先輩、会員各位のご努力と関係各方面のご支援の賜物と深く感謝申し上げます。

一方で、先の3月にメキシコのカンクーンで行われた第27回国際アクチュアリー会議(27ICA)に参加し、世界のアクチュアリーの活動に触れ、強い刺激を受けて帰ってまいりました。今回はIAAが、各国のアクチュアリー会を会員とする組織に再編されて初めての国際会議であり、世界62カ国から1200人、同伴者を含めると1800人もの参加者を集めた大きなイベントでありました。

詳細については、後日報告書が作成される予定ですが、内容的にも99の分科会において279編もの論文が発表され、非常に盛況でありました。伝統的な死亡率等に関する研究はもとより、国際会計基準の問題、リスク移転の手法、社会保障の問題、また国際的なアクチュアリーの教育制度やプロフェッショナリズムの問題等が取り扱われるとともに、投資リスクに関するAFIR、損害保険のASTIN、また今回新たに加わったヘルス・セミナーも同時に開催され、現下のアクチュアリーにかかる諸問題が広範に提示され、かつ活発な議論が行われました。

これらは、いずれも我国においても関心の深いものばかりであり、国内外において我々アクチュアリーの活躍の場が大きく広がってきていると再認識した次第です。

ご存知のとおり、国際会計基準検討の中で、会計士あるいは会計士団体が世界的にアライアンスを組んで対応しており、専門職としての組織力を急速に強化しています。一方で、アクチュアリーはもともと保険、金融の世界を100年以上も見てきた実績のあるグローバル・プロフェッション(Global Profession)でありながら、世界的に見ても現実の多くの政策議論に十分参画できていない面があります。このためアクチュアリーの持つ専門知識が、関連する重要な政策に十分に生かされないことがあるだけでなく、時にアクチュアリーからすると必ずしも合理的ではない政策決定が行われる場合が見受けられるようです。

しかし、これではいけないということで、IAAではワイダー・フィールズ(Wider Fields)という名のもとに、アクチュアリーの能力を持って貢献できる分野を広げる中で発言力を高め、その職業基盤を拡充するとともに、積極的に社会に貢献していこうとしています。

日本アクチュアリー会としても、このような大きな流れの中で目指す方向は同じであり、IAAを中心とする世界のアクチュアリーと連携をとって、その動きに参画・貢献するとともに、同時に我々が直面する日本の課題も解決していくことが強く望まれていると考えています。

平成14年度の取組み

日本アクチュアリー会の平成14年度の取組みは総会議案にも付した事業計画に記載したとおりですが、中でも「専門性の向上に向けた取組み」として、実務基準や行動規範等の会の基本的なルールの整備・充実をさらに進めるとともに、会員全体の専門職としての知識・能力・識見の維持・向上に取り組むことが重要です。

そのためには、資格試験や継続教育の充実を図ることが必要です。最低限度の対応としても、IAAの教育ガイドラインとシラバスへの対応が今後必要となってくる訳で、現在関係の委員会で検討して頂いております。

このように現在の会員の専門職としてのレベルの向上を図る一方で、アクチュアリーを志す多くの優秀な学生や人材を我々の仲間としてコンスタントに迎え入れる体制を作り、またアクチュアリアル・サイエンスの研究者の層を厚くして活発な研究成果を生み出していくためにも、大学、研究機関や他の専門職団体等との連携の強化が不可欠であると考えています。

私はアクチュアリー会が専門職集団として、一段と高いレベルを目指すとすれば、このような取組みを総合的に行う必要があると考えています。このためには、会員サービスの果たす役割は重要です。ここは事務局等を中心に積極的な取組みを期待していますが、会報やジャーナル、その他研修等による相互研鑽の他に、一例としてホームページの充実により、会員間の知識・情報のコミュニケーションを促進することが挙げられます。ホームページをアクチュアリー会活動のプラットフォームとして今まで以上に活用することで、会員の活動成果がより多くの人の目に見える形となり、会員の目的意識や能力向上に役立つという効果が期待できます。またこのことが、会の活動の社会的な認知度を高めることにもつながり、それがまた会員の専門職意識の向上を促すという良い連鎖を発生させることができれば、素晴らしいことだと思います。

最後に

冒頭、今はアクチュアリーにとっても転換期にあると申し上げました。色々とお話しましたが、要約すれば、日本のアクチュアリーとして変化を恐れず、我々がその技能を持って活躍できる幅広い分野での議論に積極的に参加して、会員それぞれがレベルアップするとともに専門職としても社会に貢献していこうということです。

また、これを個々人のレベルでやっていても限りがあるので、専門職集団としてそれぞれの持つ強みを結集して、総体として大きな力を発揮していく。ここにアクチュアリー会として会員の所属する会社・業界を超えて活動していく意義があるのだと思います。

平成13年度資格試験の結果、49名の新正会員が誕生し、それぞれ今後の活躍に胸を膨らませておられると思いますが、我々一人一人がこの機会に、是非「アクチュアリー専門職とは何か」、「アクチュアリー会は専門職集団として何をすべきか」ということを、今一度考えようではありませんか。

アクチュアリーは時代、環境に合わせて変化していく中で力を発揮してきました。また、今後も変化の中で力を発揮する専門職であると思います。その意味で明日のアクチュアリー、アクチュアリー会の姿を決めるのは会員全員の今後の行動次第と言えるでしょう。私もアクチュアリー会の理事の皆さんと一丸となって会の発展に尽くす所存ですので、どうぞ会員皆様方のさらなるご協力、ご支援をよろしくお願いいたします。

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