公益社団法人 日本アクチュアリー会
 

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理事長挨拶(バックナンバー)

2006年度

理事長 日笠 克巳の写真

社団法人 日本アクチュアリー会
理事長 日笠 克巳

(平成18年度年次大会における理事長挨拶より)

年次大会の冒頭で私がご挨拶申し上げますのも早いもので3度目でございますが、今年度のプログラムにつきましても、本日の諸先生方による特別講演のほか、ソルベンシーの国際的動向、内部統制、医療制度改革、損保の実務基準、被用者年金制度の一元化、退職給付会計基準、企業年金関連法の見直し、など、どれを取ってみましても時宜を得た話題であり、多岐にわたり魅力のあるプログラムが組まれていると思います。
これら明日の発表につきましては、一部外部の先生もお招きはしておりますが、大半は会員によるものであります。
アクチュアリー会の活動が、全般に会員を中心としたボランティア活動によって支えられているものであることは改めて申し上げるまでもありませんが、今回の大会におきましても、発表者として、あるいはプログラム全体の企画・構成に携わる形で、会社の業務の傍らご努力を重ねられた会員一人一人に対して、改めて会全体を代表いたしまして敬意を表し、感謝したいと思います。

【IAAでの国際アクチュアリー教育プログラム創設の動き】

さて、昨年度の年次大会のご挨拶でも、アクチュアリーに対する教育の重要性についてお話し申し上げましたが、アクチュアリーの教育に関し、ちょうど1年ほど前から、国際アクチュアリー会(International Actuarial Association;IAA)の場におきまして、一つの新しい検討が始まっております。
それは、国際アクチュアリー教育プログラム(International Actuarial Education Program)の検討が始まったということです。
このプログラムはどんなものかを簡単に申し上げますと、主としてまだアクチュアリー職が発展していない国、あるいはそもそも保険・年金制度そのものが発達していない国を対象として、早期にその国でアクチュアリーの育成が可能となるように、国際アクチュアリー会が教育制度と試験制度を提供する、というものです。
言うのは簡単ですが、国際的な場で教育制度と試験制度を創設するというものですから、容易に想像できるとおり、お金の面でも人の面でも負荷が非常に高いプロジェクトであり、現在はまだフィージビリティの検証を進めている段階に過ぎません。
現時点では実現されるかどうかはまったく不透明です。
しかしながら、この検討に携わる各国のアクチュアリー達は、アクチュアリー職の国際的な普及という使命感と理想に燃えて精力的な検討を行っております。

日本のように、既に教育制度も試験制度もしっかりと確立された制度がある国においてはあまり関係のない話と思われる人も多いかと思いますが、この検討の一つとして、新しい教育・試験制度で教える内容はどうあるべきか、というところも含まれております。
基本的には、国際アクチュアリー会の定めている教育ガイドラインとシラバスに沿ったものと考えられておりますが、この教育ガイドラインとシラバスも制定されたのが1998年であり、新しい教育・試験制度を創設するのであれば、それ以降の発展も踏まえて教育ガイドラインとシラバスを見直し、新規の内容も付け加えるべきではないか、といった議論もされております。
従いまして、日本も国際アクチュアリー会の正会員の一員として教育ガイドラインとシラバスに従うべき立場にあることから、早晩何らかの影響を受ける可能性も出てまいります。

【アクチュアリーと公益の保護】

しかし、今日私がこの国際アクチュアリー教育プログラムの話を出しましたのは、「日本への影響がどうか」といったことを皆様にお話したかったからではありません。
そうではなく、こういったプログラムが必要とされている背景について考えを巡らせてみたかったということです。
その背景と申しますのは、プログラムの主要な対象は、いわゆる発展途上の国々になりますが、これらの国において、経済が健全に発展し、国民が安心して生活を送るためには、保険・年金制度がしっかりと発展することが不可欠である、そして、保険・年金制度が健全な形で発展するためには、アクチュアリーの存在が欠かすことはできない、こういった基本的考え方が底流にあるということなのです。
そこで、発展途上の国々にできるだけ早期にアクチュアリーの存在を根付かせるべく、国際アクチュアリー会で教育プログラム創設の検討がスタートしているのであって、単に闇雲にアクチュアリー学を全世界に普及することが目指されているというわけではないのです。

ここに、まさに、教育の目的、あるいは逆の立場で言うと勉強する目的は何であるかが端的に現れていると思います。
まだ、アクチュアリー試験を受験中の人にとっては、勉強の目的は試験に合格するためと答える人が多いでしょう。
また、既に正会員となった人にとっては、勉強の目的はいろいろとありうるでしょうが、純粋に自己の知的好奇心を満足させたい、あるいは、自分のスキルアップを図って、会社でさらに活躍したい、といったことが目的となってくるように思います。
しかしながら、会員の皆様には、私が先ほど申し上げた話を時おりでも結構ですので思い出していただいて、自分が勉強して試験に合格する、あるいはスキルアップをするその先にあるのは、一国の経済の繁栄や国民生活の向上への貢献なのである、という意識、高い志を改めて認識していただきたいと思うのです。

皆様ご存知のイギリスのモリスレビューにおきましても、アクチュアリーはpublic interest、一般公衆の利益を守る義務と責任を持った存在であるということを一つの軸として、議論が展開されておりました。
また、アメリカで現在行われている、アクチュアリー会自身によるアクチュアリー職の自己レビューにおきましても、つい先般公表されたレポートドラフトでは、“Actuarial Needs of the Public”、「一般公衆のアクチュアリーに対するニーズ」という題の章が冒頭に置かれ、アクチュアリーがいかに一般公衆の利益に資するかが中心的テーマに位置付けられておりました。

日本アクチュアリー会は、組織としては、もとより公益法人でありますので、公益に資する活動を行なうことは当然ではあるのですが、あらためて公益とは何か、公益を守ることとはどういうことかを今日的な目で見つめ直し、アクチュアリーの存在意義を高めるような会の運営を行なっていかなければならない、という責任を痛感いたします。

【全体的な能力が要求されるアクチュアリー】

アクチュアリーの存在意義ということで申しますと、イギリスのアクチュアリー会のホームページにある「アクチュアリーとは何か」の説明の中に、このような記述があります:“Actuaries apply financial and statistical theories to solve real business problems.”訳しますと、「アクチュアリーは金融や統計の理論を応用して、現実のビジネス上の問題を解決する」ということです。
短い文章の中に、アクチュアリーにとって重要な点が凝縮されている表現だと思います。
まず、「金融や統計の理論を応用して」というところ。
アクチュアリーの仕事はやはり理論の裏づけがなければ、何の価値もないのは、申すまでもないことと思います。
次に、「現実のビジネス上の問題を解決する」という後半です。
紙と鉛筆の上だけで、現代的に言うとコンピュータの世界の中だけで、バーチャルな問題を解いているだけでは、アクチュアリーとは言えないということです。
それだけでは、単に自己の知的好奇心を満足させるためだけの閉鎖的な自己満足に終わりかねません。
現実の問題を解決して、会社なり、あるいはもっと広く社会なりを少しでも改善していくのがアクチュアリーであるということなのです。

海外のアクチュアリーと議論をしていると、よく彼らは、「アクチュアリーは integrity を持って仕事をしないといけない」という言い方をします。
integrity とは日本語に直すと、誠実とか、高潔とか訳されることが多いかと思いますが、さらに完全性という意味もあります。
この完全とは、perfectということではなく、whole あるいは complete といった、すべて揃っている、何も欠けたものはない、という意味の完全ということです。

これを先ほどのアクチュアリーの定義と重ねて考えますと、アクチュアリーが現実のビジネス上の問題を解決するためには、理論を中心的な柱として、専門職としての倫理意識、コミュニケーション能力等々、全体的な能力が要求されている、ということではないでしょうか、また、そこを目指さなければ、一般公衆の利益を守るといった責任は果たせないのではないか、と考えております。

【最後に】

やや話が抽象的になってしまったかもしれませんが、当会でも今、関連の委員会におきまして、組織として進むべき今後の方向性を議論しているところです。
会員の皆さんも業務に追われる多忙な毎日を送っておられる中で、時に立ち止まって、アクチュアリーの存在意義とは何か、アクチュアリーは何のために仕事をするのかを見つめ直していただきたい、というお願いを最後に申し上げて、私の挨拶の結びとさせていただきます。

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2005年度

理事長 日笠 克巳の写真

社団法人 日本アクチュアリー会
理事長 日笠 克巳

(平成17年度年次大会における理事長挨拶より)

昨年の7月に理事長に就任し、年次大会でご挨拶をするのは2度目になるわけですが、この1年の間にも、アクチュアリーおよびアクチュアリー会を巡る環境には様々な動きがございました。

【資格試験と正会員資格取得要件の改定】

まず、我々に一番身近な話としては、資格試験と正会員資格取得要件の改定が、今年度より実施されます。つまり、資格試験については、既存科目の「数学」の試験範囲の中に、明示的に「モデリング」を取り入れたこと、また正会員資格を取得するためにはプロフェッショナリズム研修の受講が要件となったことです。

この変更は平成14年10月の理事会において決定されたものです。その直接の背景は、IAA、即ち、国際アクチュアリー会がアクチュアリー教育の必要最低限の国際的な基準として「教育ガイドラインとシラバス」を定めたのですが、今年度よりその基準が本格適用されることになり、日本アクチュアリー会のようにIAAの正会員メンバーである組織は、その基準を満たすことを要求されている、というところにあります。しかしながら、この変更は単にIAAの定めた基準を満たすため、という受動的な意味しか持たない、というわけではありません。

例えば、モデリングの試験範囲への取り込みにつきましては、アクチュアリーが扱うリスクがますます多様化・複雑化しており、統計的モデリング、確率論的モデリングの知識を有することが、今後はアクチュアリーとして不可欠となることに対応するもの、と考えております。今回の年次大会でもいくつかのセッションにおいて関連の話題が取り上げられるようですが、実際に、変額年金の最低保証リスク、自然災害リスク、あるいは第三分野商品のリスクなどへの対応にアクチュアリーが力を発揮することが強く期待されている現実を見ますと、さらにその感を強くいたします。

【アクチュアリー教育における課題】

モデリングに限らず、アクチュアリーが習得すべき知識・技術はますます高度になっており、日本アクチュアリー会として会員の皆様に時代や環境の変化に即した教育・研修の機会を提供する責任はますます重くなっております。先般、インドネシアのバリ島で第13回東アジアアクチュアリー会議-EAAC-が開催され、私も参加してまいったのですが、そういう場でアジア各国のアクチュアリー組織のリーダーと意見交換をしておりますと、各国から異口同音に出てまいりますのが、会員に対しいかに時代や環境に合った教育を提供するかが悩みの一つであるという話です。つまり、従来とは異なる新しい内容の教育を会員に提供していかなければならないことはわかっているものの、その教育を行う人の面でのリソースが不足している、という悩みです。これは、アジア各国のみならず、グローバルに共通した悩みのように見受けられます。

このような状況において、一つのグローバルなトレンドとなりつつあるのが、アクチュアリー教育、特にテクニカルな初期的教育については大学との連携を強めることであるように思われます。例えば、オーストラリアでは既に特定の大学を卒業すれば、資格試験の一部が免除されるシステムを導入しておりますし、英国ではモリスレビューがアクチュアリー教育は大学での教育を主体とすべきと指摘しておりました。また、米国におきましても、資格試験の一部を免除可能とするための大学の基準策定の検討に着手しております。

日本でもいくつかの大学で本格的なアクチュアリー講座が既に開設される、あるいは近々開設される見込みであるなどの動きがあり、アクチュアリー会が講師派遣などについて相談を受けることもあるのですが、これからはアクチュアリー会の方から大学に対して、会員教育の一端を大学で担ってもらう可能性がないものかどうか、相談を持ちかけていくということも必要になってくるのではないかと考えております。いずれにしましても、日本アクチュアリー会として、今後アカデミックの世界と互いにさらに強い協力関係を築いていかなければならない時期が来ていると思います。

【アクチュアリーに寄せられた期待とアクチュアリー会の役割】

さて、次にもう一つの変更点である、プロフェッショナリズム研修に因み、プロフェッショナリズムに話を移したいと思います。日本では、法律に根拠を持ち、原則的にアクチュアリーしかその役職につけないものとして、保険計理人と年金数理人という役職がありますが、われわれアクチュアリーは、保険制度あるいは年金制度の健全な運営を図るための仕組みの一端を法律に基づき担っている、このことの重みを再認識する必要があるのだろうと思っております。特に昨今、計理人制度が広がる動きがあるのを見るにつけその感を強くします。例えば、昨年よりJA共済において共済計理人制度が法定化され、さらに来年度より現在の根拠法のない共済が、事業を継続するためには、保険業法の規制下において、保険会社または少額短期保険業者に移行する必要があり、それにより保険計理人を置く必要が出てまいります。さらには、損害保険会社におきましても、現在アクチュアリー会の内部におきまして、損保の保険計理人の実務基準の制定に向けて、担当の部会で鋭意検討が続けられており、保険計理人の役割はますます重要になるものと思われます。

このような動きは、アクチュアリーという専門職に対して大変高い期待が寄せられている現われであり、われわれにとっては、活躍の場が広がるという意味においても、歓迎すべきことではあるのですが、一方でその寄せられた期待に応えないといけないという重い責任もあります。そのためには、一人一人の会員が絶えず自己のスキルの継続的な向上ならびに高度な倫理観と専門職意識の維持を図る努力をしなければいけないのは当然なのですが、それ以上に重要なことは、アクチュアリー会として、会員が努力しやすいように、また、その努力の実りがより大きくなるように、制度の整備や、制度内容の充実を図っていかなければならないということです。具体的には、継続教育制度のさらなる充実などは会として非常に重要な課題の一つであると認識しております。

【会の内外でのコミュニケーションの重要性】

さて、理事長として最近あらためて痛感しておりますことの一つに、以前とは比較ができないほど、アクチュアリー以外の世界の人たちがアクチュアリーに対して抱く関心が高くなっている、ということがあります。先日もある保険会社の役員の方から、「アクチュアリー会のホームページを見てみたが、もう少し分かりやすいホームページにしてくれないか」との苦言を頂戴したことがあります。先ほど話を出しましたEAACの大会におきまして、英国ロンドン・アクチュアリー会の元会長であるPeter Clark氏がモリスレビューに関するプレゼンテーションを行なっていたのですが、その中でClark氏はアクチュアリー以外の人たちとのunderstanding gap −理解のギャップ−をなくして、コミュニケーションをきちんと取ることの重要性を力説していました。私もまったく同感であり、日本アクチュアリー会は、会員に対してはもちろんのこと、会の外に対して、わかりやすい情報発信、多様な情報発信をしていく開かれた存在である必要があると強く思います。例えば、今回の年次大会そして昨日・今日の2日間年次大会と同時に開催しておりますIT研究大会におきましても、大会委員会、論文委員会、プログラム部会、IT委員会の非常な努力により、会員だけでなく、業界内外の関係者、行政、大学関係者などさまざまな層から関心を抱いてもらえるような魅力的なプログラムが揃えられていると考えます。それだけに、大会の記録は、従来は会報・アクチュアリージャーナル・会員専用ホームページなど、会員向けのメディアにおいて発表されてきたわけですが、ぜひ支障のない限り、一般のホームページにも公開し、会員外の人がアクチュアリーの行なっている充実した活動の一端を知る機会を増やすことができれば、と考えております。

【最後に】

最後になりましたが、今年度の年次大会における特別講演の演題に盛り込まれた言葉を拾ってみますと、いみじくも「新時代」「大変動」「国際的潮流」とまさに我々アクチュアリーを取り巻く環境を象徴する言葉が並んでおります。これを見て、日本アクチュアリー会も、また会員一人一人も、時代の変動に柔軟に対応し、アクチュアリーの存在意義をさらに高めるよう努力しなければならない、という思いを新たにしたことを最後に申し上げ、私の挨拶の結びとさせていただきます。

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2004年度

理事長 日笠 克巳の写真

社団法人 日本アクチュアリー会
理事長 日笠 克巳

はじめに

本年5月31日に開催された理事会におきまして、7月1日付で理事長に就任することが決議されました。会員の皆様に、今後の日本アクチュアリー会の運営等につきまして、ご挨拶申し上げます。

最初に、寺阪前理事長におかれましては、その在任中、日本アクチュアリー会の発展のために、数多くの貢献をしてこられましたことに、改めて感謝の意を表したいと思います。1999年に開かれました100周年記念大会でのビジョン委員会報告で提案されたアクション・プログラムに基づいて、アクチュアリアル・サイエンスの発展に向けた研究活動の推進、さらにその根幹となる産学共同プログラムを推進してこられました。また、国際交流の面では、国際アクチュアリー会(IAA)活動への積極参加とともに、特に東アジア各国アクチュアリー会との交流に努められ、2007年度に日本での開催が予定されております東アジアアクチュアリー会議(EAAC)に向けた礎を築いてこられました。

寺阪前理事長の業績を更に発展させ、アクチュアリーという専門職が一層その役割を高められるよう、会員の皆様と力をあわせたいと思います。

アクチュアリーとは何か

これは、先程述べました100周年記念大会ビジョン委員会での検討の際の大きなテーマでした。若干長くなりますが、ビジョン委員会報告の一節を引用します。

厳しい競争環境の下において企業の自己責任原則が問われる中、企業経営におけるリスク管理強化へのアクチュアリーの関与はますます重要となる。保険・年金事業におけるアクチュアリーの位置付けも、同事業における競争性と健全性のバランスをどのように保つかという、いわば『リスク・コントローラー』としての役割が重要になると考えられる。そのためにはIAAの教育ガイドラインに見られるように、投資・ファイナンス面の知識・スキルの向上とモデリング技法の習得・応用が徹底され、同時に継続教育制度の充実が不可欠になると思われる。

今から5年以上前に、日本の環境変化や各国のアクチュアリー会の動向を見つめながらまとめた報告書ですが、まさにアクチュアリーが目指すべき道を的確に予見したものとして、現時点においてもそのまま当てはまる内容であると考えます。

このことを象徴するような出来事として、私が理事長に就任した直後に、次のような2つのセミナーが東京で開かれました。

1つ目は、7月9日に開かれた、英国アクチュアリー会(Faculty and Institute of Actuaries)、米国アクチュアリー会(Society of Actuaries)、そして豪州アクチュアリー会(Institute of Actuaries of Australia)が共同主催し、日本アクチュアリー会が後援した、“Joint Regional Seminar in Asia, 2004”です。これは、「リスク・マネジメント」にテーマを絞ったセミナーでした。講師のプレゼンテーションも質疑応答も英語で行われましたが、参加者は130名を越えました。2つ目は、7月27日から31日まで開かれた、米国アクチュアリー会と日本アクチュアリー会共催のALMセミナーです。講義の部分は通訳付でしたが、グループに分かれてのケース・スタディは英語で行われ、また、参加者はラップトップ・コンピュータ持参で演習も行いました。このセミナーは、3つのコースに分かれており、中国、台湾、韓国などの国々からも多数の参加がありましたが、日本からも、講師として参加した2名、さらにそれぞれのコースの参加者を合わせると、延べ約50名の会員が参加しました。

この2つのセミナーに触れて、私が強く感じましたのは、アクチュアリーの担う責任や期待が高まっている中で、高度なリスク・マネジメントに代表される、従来の知識やノウハウでは対応できない新たな、しかも現実の業務で直面している問題に応用できるプラクティカルな技法の習得を多くの会員が望んでいるということです。

日本アクチュアリー会は、従来から各種のミーティングを通じて、会員の皆様へ研修の機会を提供してきました。そして、平成12年度からは継続教育制度を開始することにより、会として提供する研修の質と量を一層充実させるべく努力を払ってきました。また、教育・研修機会と内容の充実に力を注ぐ、多くの中堅・若手会員の努力もあって、ムーンライトセミナー、追加演習講座、海外研修など、いろいろな形式を導入し、会として提供する諸研修は、より充実・強化されてきました。そういった過去の積み重ねがあった上で、さらに高度な学習機会への参加を多くの会員が希望しているのだろうと考えます。

ここで、最初の「アクチュアリーとは何か」という問い掛けに戻りますと、1999年当時にビジョン委員会が出した答は、現在でも通用するものではあるものの、将来にわたっても通用するとは限りません。時代が変われば、「アクチュアリーとは何か」という問いに対する答も当然変わってまいります。私たちアクチュアリーがアクチュアリーであり続けるためには、時代の要請に応じて、絶えず新しい知識や考え方を身に付けて、自らを進化させていく必要があります。会員の皆様の学習意欲の高まりは、こういった必要性を感じ取られている故のものであると思います。会員一人一人が専門職としてさらに有効に機能を果たして行くためにも、日本アクチュアリー会が教育や研修の機会を充実させていくことは、最も重要な任務の一つであると考えております。

アクチュアリー会の発展に向けて

平成16年度の当会の事業計画については、すでに本年5月31日の定時会員総会で決定されているところですが、その中で、とりわけ重要であろうと思う点について、2点述べてみたいと思います。

第一は、アクチュアリアル・サイエンス発展への貢献です。今年の春、当会の損保数理ロスモデル研究会の翻訳になる「統計データの数理モデルへの適用」が出版されました。これについては、当該研究会のメンバーとして翻訳に当たられた方々のご努力に対し、心から敬意を払うものです。会員の皆様もご承知のように、IAISやEUで検討されている新しいソルベンシー規制、北米や日本で検討が進められている最低保証付の変額年金の責任準備金積立ルールなど、アクチュアリーが関与している各種テーマの取り扱いにおいては、モデリングと統計学的手法の応用が欠かせなくなっています。日本アクチュアリー会におきましても、IAAの教育ガイドラインとシラバス要件への対応を図るためにも、平成17年度の資格試験より「モデリング」を試験範囲に加えることを決定しております。こういった流れの中で、当会における教育体制もさらなる充実を図っていきたいと考えますが、我々アクチュアリーの大半は実務家であり、例えば、統計学の先端的理論や、深堀りされた研究を咀嚼していく点では、限界があることも否めません。そのため、大学等の研究者からご指導を仰ぐ必要性は今後さらに高まってくるものと考えられます。また、会として、先生方とのコミュニケーションを密にし、大学等の研究機関と共同で研究できる態勢構築やテーマ選定をしていくことが、今まで以上に重要になってくると考えます。

第二は、IAA等の国際機関の活動への参画です。国際会計基準やソルベンシー評価の問題、さらには、ASTIN、AFIR等のIAAの部会などにおいては、大変精力的に検討・協議が進められており、当会からも積極的に参加をしております。非常に専門的な内容でありながら、大変に議論のスピードも速くて、委員の方々ならびにそれをサポートする会員の方々のご苦労も大きいと承知しております。特に、これらの国際機関における議論は、当然ながら、すべて英語で行われており、ごく一部を除き、やはり我々日本のアクチュアリーは語学上の大きなハンディキャップを背負っておりますので、その苦労は一段と大きいものです。しかしながら、私が日頃感じておりますのは、海外のアクチュアリーと議論ができるかできないかは、語学スキルの良し悪しよりも、いかに自分の考えをしっかりと持っているか、そしてそれを相手に伝える意欲があるかどうかによる、ということです。相手が真摯なアクチュアリーであれば、内容のないことを完璧な英語で言うよりも、英語はつたなくとも、しっかりした内容を熱心な態度で伝える方が、こちらを真剣な議論の相手としてみなしてくれるものと思います。皆様一人一人も、臆することなく、ぜひ海外のアクチュアリーと積極的にコミュニケーションを交わしてください。日本アクチュアリー会としましては、個々の会員の方が少しでもコミュニケーションを取りやすくなるよう、海外活動を積極的に行って、世界における日本のアクチュアリーの地位を高めていきたいと考えております。

今、私が挙げました2点の中で共通して触れましたのは、コミュニケーションということです。つい先日、アクチュアリー会のホームページにおきましても、会員専用サイトのリニューアルが行われましたが、この開発の目的の一つも、会員相互間のコミュニケーション活発化のためのツールの提供ということでした。皆様もこのツールを有効に活用いただきたいと思います。また、会員相互間のコミュニケーション以上に、会員外とのコミュニケーションは重要です。コミュニケーションの対象は会社の経営者、上司、同僚、部下、あるいは行政官などから、上に挙げました大学の先生方、海外のアクチュアリーまで、多様にわたります。そういった現実のコミュニケーションの場面では、相手にとっては、「日本のアクチュアリー」とは抽象的な概念ではなく、皆様一人一人の生身の人間であるはずです。そのため、個人個人のより良きコミュニケーションへの努力が、ひいては「日本のアクチュアリー」の地位の向上と、アクチュアリーが専門職に相応しい敬意を得ることにつながっていくものと思います。皆様一人一人が専門職としての良い意味での自覚を持ち、専門職としての力量と見識を他にアピールできるよう、意を配っていただくことを期待したいと思います。

最後に

日本アクチュアリー会は、100年を超える歴史を持つ、我が国でも有数の専門職団体の一つであり、現在、3,600名を越える個人会員を有しており、その数も年々増加しております。また、そのような環境下において、日本アクチュアリー会としての責任や、会員の皆様の個人としての役割・責任は増してきていると考えます。

日本アクチュアリー会の運営は、理事会をはじめ、その傘下の各委員会・部会等で行われているわけですが、実質的には会員各位の積極的な参加とご努力によって、ほとんどすべてが担われております。今後とも、会と会員に対する社会の付託に応えていくためには、専門職団体として会の諸活動を一層充実してまいらねばなりません。会員の皆様にも、ぜひ積極的なご協力をお願いいたします。そして、「アクチュアリーとは何か」という問い掛けに対する答がどのように変容しようとも、常に「自分はアクチュアリーである」と胸を張って言えるよう、日々の研鑽を積んでいただきたいと思います。

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